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大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)1228号 判決

兵庫相互銀行

事実

原告両名は、請求の原因として次のとおり述べた。「別紙目録記載の物件(目録省略、以下本件物件という)のうち宅地は原告山下忠男の、また建物は原告大和鋼管工業株式会社の各所有であるところ、本件物件については、昭和三〇年一一月一日大阪法務局江戸堀出張所受付第一四四三一号をもつて、債務者高木セロフアン株式会社、債権極度額三〇〇万円の根抵当権設定登記手続がなされている。しかしながら、原告両名は本件物件を訴外高木セロフアン株式会社(以下訴外会社という)と被告間の根抵当権設定契約の担保物件として被告に提供したことなく右根抵当権設定登記は、訴外会社代表取締役高木政三が関与してしたものであるが、原告両名は、同人に右設定登記に関する代理権を授与したことなく、右登記は同人が原告両名の白紙委任状及び本件物件の権利証等を所持していたのを奇貨に原告両名不知の間になした無効の登記である。よつてこれが抹消登記手続を求めるため本訴に及んだ。

被告の抗弁は否認する。被告は本件根抵当権設定登記をするに際し、直接原告両名についてその承諾の有無を調査していないのであつて、被告は銀行として当然なすべき注意義務を怠つたものというべきであるから、被告には高木政三に本件根抵当権設定登記に関する原告両名の代理権ありと信ずべき正当の理由を有していたものとはいえない。」

被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。「原告の主張事実中本件物件のうち宅地が原告山下忠男の、また建物が原告会社の各所有であること並びに本件物件につき昭和三〇年一一月一日大阪法務局江戸堀出張所受付第一四四三一号を以て、原告主張のような内容の根抵当権設定登記がなされていることは認めるが、その余の事実は否認する。

抗弁として、原告両名は訴外会社の代表取締役である高木政三に本件物件について原告の主張するような根抵当権設定登記をなす権限を授与したものである。かりに右高木政三において右代理権を有しなかつたとしても、当時高木政三は、原告山下忠男から本件物件を担保として銀行からの金員借受の委任を受けていたものであり、被告は本件根抵当権設定登記をするにつき、高木から原告両名の委任状、印鑑証明書及び本件物件の権利証等の提示を受けたものであつて、同人に本件根抵当権設定登記に関する原告両名の代理権ありと信ずべき正当の理由を有していたものであるから、原告両名は、右高木の行為につきその責に任ずべきである。」

理由

本件物件中、宅地が原告山下忠男の建物が原告会社名の所有であること、並びに本件物件に昭和三〇年一一月一日大阪法務局江戸堀出張所受付第一四四三一号を以て、原告主張の内容の根抵当権設定登記がなされていることは、いずれも当事者間に争がない。

そこで、右本件根抵当権設定登記が如何にしてなされたかを見るに証拠を総合すると、原告会社は訴外高木政三が代表者である訴外会社から融通手形を受取り、これが担保の意味合から原告会社の代表取締役たる原告山下忠男は、右高木政三に、本件物件の権利証原告両名の白紙委任状等を預けていたが、右手形関係が決済された後も右権利証等の返還を受けることなく、本件物件を担保に、銀行からの金員借受方を右高木に委任したこと、しかるに高木は当時訴外会社がすでに昭和三十年八月頃被告銀行から金三百万円を借入れた際その担保として提供した物件に問題が生じており、被告銀行からこれに代る物件の提供方を督促されて苦慮していた矢先であつたため、右高木は原告山下からの前記委任の趣旨に反し本件物件を訴外会社の被告に対する前記債務の担保物件として提供し、本件根抵当権設定登記を経由した事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そこで被告の表見代理の抗弁につき判断すると、本件根抵当権設定登記手続がなされた当時高木政三が原告山下忠男から銀行からの金員借受の委任を受けていたことは前記認定のとおりであり、証人高木政三、久保田春雄の各証言によると右高木政三は本件根抵当権設定登記をなすに当り、原告会社及び原告山下忠男の前記白紙委任状本件物件の権利証等を被告銀行員に提示しており、被告としてはこれがために右高木に原告両名を代理して本件登記手続をなす権限があると信じたことを窺うに充分である。

しかしながら、証拠によると被告は原告両名に対し、直接本件根抵当権設定登記をなすについての承諾の有無を調査したものでないことが認められるのであつて、被告は高木の言葉を軽々に信用し、銀行ならば当然とるべき措置をとらなかつたといわれてもやむを得ないものといわなければならない。この点からいつて被告は高木が原告両名の本件根抵当権設定に関する代理権があると信ずべき正当の理由があつたのもとは認め得ない。したがつて被告の前記抗弁は採用できない。

そうすると被告は原告両名に対し本件根抵当権設定登記の抹消登記手続をなす義務あるは明らかであるというべく、本訴請求は正当である。

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